認知症に関しては、現在の高齢化社会の影響もあり非常に遭遇する頻度が多くなっております。疾患診断としてはアルツハイマー病や脳血管性認知症、レヴィ小体型認知症など様々なタイプが分けられるとされていますが、現段階では生前に診断を確定させることが困難な場合もあり、根治的治療法が見つからないと言うような現状もあります。
その反面、慢性硬膜下血腫や水頭症など、いわゆる「治る認知症」とされるケースも少なくないため、脳外科医や神経内科医、そして我々精神科医といった専門性の高い医師の診察を受けることが重要と考えております。
現在の超高齢化社会において、ある程度の高齢になればいわゆる「加齢に伴う物忘れ」と言う、ある意味病気と異なる状態も少なくありません。実は日常生活に支障はありながらも日々の生活はどうにかこなせてしまうこともあり、なかなか短時間の診察のみでは判断が難しいこともあります。
薬物療法はあくまで治療の一部分であり、その方の生活スタイルに応じた社会資源の活用や介護保険の活用導入、加えて社会との接点などを用いながらその方に応じたライフスタイルを相談していくことになると思います。
認知症患っている方の家一過性に周辺症状(BPSD)が断続的に出現し、時に大きな健康上の問題や生命ように影響与えることも少なくありません。これらに関しては必ずしも薬物療法が必須と言うわけではありませんが、転倒やその他の健康上の大きな支障、生命予後に影響与えることもありますので早期の介入が有効とされます。我々精神科医はこれらに関しては専門領域でもあり、個別性に応じた治療介入を行いながら、同時並行として介護保険などの導入などもご相談させて頂いております。
当院は精神科専門医のみならず精神保健福祉士による生活面の支援相談を長年続けておりますので、適切なアドバイスを提供することが出来ます。
認知症とは
記憶障害と思考・判断力低下、言葉や行動の異常が現れて、お仕事や日常生活が困難になる疾患です。
物忘れは最初に現れやすい症状です。最近の出来事が思い出せなくなった場合、認知症の疑いがあります。物忘れは誰にでも起こりますが、通常の物忘れと認知症による物忘れには違いがあります。たとえば、鍵をなくしたという場合、通常の物忘れでは「鍵をどこに置いたか」を忘れているだけですが、認知症の物忘れでは「鍵をなくした」こと自体を忘れてしまいます。初期には最近の出来事を忘れやすくなりますが、次第に昔のこと・言葉などの意味がわからなくなって、場所や人を識別できなくなり、状況や環境に合わせた行動がとれなくなってしまいます。
認知症の原因と発症頻度
脳梗塞・脳出血などの脳血管障害、脳外傷、脳腫瘍、脳炎などによって脳にダメージがあって起こるケースと、アルツハイマー病やレビー小体型認知症などの認知症性疾患によって起こるケースがあります。発症頻度では、50~60%がアルツハイマー型認知症、20~30%が血管性認知症、10~20%がレビー小体型認知症、それ以外が10%とされています。多くが脳の老化に関わるため65歳以上の発症が多く、患者数も増加傾向にあります。認知症の疑いまで含めた場合、高齢者の10人に1人弱が認知症であると指摘されたこともあります。
認知症は加齢によって進行する病気ですから、早期に発見して進行をゆるやかにすることでQOL(クオリティ・オブ・ライフ)をできるだけ長く保っていくことが重要です。
認知症の主な症状
認知症の症状は、共通して起こる中核症状と、個人差が大きい周辺症状に分けられます。
中核症状
認知症では、脳の記憶や認知機能を司る神経細胞が死滅します。そのため、共通して現れる症状があります。ご自分では気付きにくい変化に周囲の方が先に気付くこともよくあります。病気という自覚なく心の問題として苦しんでいるケースもありますので、下記のような症状があったら、気軽にご相談ください。
記憶障害
- 会った人の名前を忘れてしまう
- 食事したかどうかを思い出せない
- 自分が何をしようとしていたかを忘れてしまう
- 知っているはずの道なのに、思い出せず迷ってしまう
- 物を置いた場所を忘れる・置いたこと自体を忘れてしまう
見当識障害
- 約束した時間を守れない
- 外出の準備ができない
- 季節や気温に合わせた服選びができない
- 道に迷って家に帰れない
- 家の中でトイレ・キッチン・お風呂・寝室などを間違える
- 家族・親戚・友人など、親しい相手が誰だかわからなくなる
判断・実行機能障害
- 料理ができなくなる
- 計画的な買い物ができない・不要な物を買ってしまう
失語・失認・失行
- 言葉をうまく話せなくなる
- 長く行ってきた一連の動作ができなくなる
病識欠如
- 自分の病気の症状がわからなくなる
周辺症状
現れ方や内容の個人差が大きい症状です。環境、人間関係、心理状態などによって変わってきます。周辺症状は精神的な症状と行動的な症状に大きく分けられます。
精神的な症状
- 気分が落ち込む
- あるはずのない物が見える・聞こえる
- ありえないことを固く信じ込んでしまう
- 物忘れが悪化する
- 日時、曜日、場所、人がわからなくなる
- 考えることや理解することが難しくなる
- 単純な足し算や引き算などの計算ができなくなる
- 判断力が低下する
- 人違いしてしまう
- 盗まれたと勘違いする
行動的な症状
- うまく飲み込めず、むせやすい
- 歩き回る、徘徊
- 不眠などの睡眠障害
- たやすく怒るようになる
- 暴力をふるう
- 食べられない物を口に入れる
- 便をいじる
- 歩けなくなる
- 尿や便が出にくい、失禁する
治療
認知症になる前の軽度認知障害の段階で早期発見できれば、認知症の進行を遅らせる可能性が高くなります。物忘れが気になったら専門医を気軽に受診することで軽度認知障害の発見が可能です。
また、硬膜下血腫や軽微な脳梗塞などが発見できて、将来起こる可能性のあった深刻な発作の予防につながるケースもあります。
認知症を完全に治す治療法は現在まだありませんから、薬物治療ではできるだけ症状を軽くして、進行の速度を遅らせることが目的となります。そのためにも早い受診が重要です。
ご家族へのケア
介護をされる方やご家族の方に、効果的な対応方法などをお伝えしています。余計な刺激を避けるためのポイントや認知能力を高めるためのアドバイスなども行っています。ご質問やお悩みがあれば、当院には社会福祉士やケアマネジャー資格を持つ精神保健福祉士が常駐しております。電話でのご確認の上、いつでもご相談ください。