睡眠障害は、当院のような市中の精神科クリニックを訪れる患者様の中では非常に頻繁に見られる疾患です。そもそも不眠とはどのようなものでしょうか?
一般に「人間が何時間眠れれば良いか」という健康的な定義と言うのはできません。現段階で一番的確な答えとしては「睡眠時間は人によって異なり、疲労感なく朝起きられ昼間普通に過ごしていれば睡眠時間としては正常である」が正解かと思います。
世間では○○時間眠れれば健康、××時間眠れなければ不健康など称し睡眠不足を注意喚起する傾向もあります。それらが決して不適切な表現ではありませんが、精神科/心療内科の診療の現場ではもう少し踏み込み、都市部におけるライフスタイルの変化や個人の生活傾向の違い、シフト勤務や家庭内での生活の変化など、まずは現在の睡眠が本人にとって合っているか否かを丁寧に伺っていきます。また、統合失調症やうつ病、そして認知症など主たる疾患に併発する形でなく、独立した睡眠障害というものも多いです。その際にどのような薬物療法をどの程度の期間用いるのか、そして治療のエンドポイントをどこに設定するかが大切なこととなります。
特にここ数年ベンゾジアゼピン系薬物に関しての弊害が取り上げられることが多くなりました。これらの薬に関しては的確に急性期治療において用いることができれば十分に効果があり、また健康的な価値も著しく改善すると思われます。(急性期の不眠に関して非薬物療法のみで対応するというのは非常に困難です。)しかしながらこれらの不眠(特に慢性の不眠)で我々が注意するのは、アルコール(特に昨今増えてきたアルコール濃度の高いアルコール飲料)やインターネット/スマートフォン利用(特にSNSやインターネットゲームなど)、依存性や嗜癖性の高い要因がある患者様への対応です。急性期の対応として薬物療法のみを用いると中長期的な依存形成などの懸念もあります。
専門的な見地としては、『車の両輪』として「薬物療法」と「生活指導」を併用していくことが望ましいと思われます。
睡眠障害
睡眠障害には、「寝付けない」「すぐ目覚めてしまう」「眠りが浅い」などさまざまなタイプがあります。また、原因に睡眠時無呼吸症候群、概日リズム睡眠障害、むずむず脚症候群などが隠れていることもあります。こうした疾患が原因になって睡眠障害が起きている場合、睡眠薬の服用が悪影響を及ぼすこともあります。
アレルギーによるかゆみが不眠につながることもありますし、うつ病などの心の病気では睡眠障害が起こることが多くなっています。こうした場合も、睡眠の質改善だけでなく原因となる疾患の治療が不可欠です。
ただし、枕などを含めた寝室の環境や生活習慣の見直しによって眠りの質が改善できるケースも少なくありません。「眠れない」というお悩みがある場合、疾患が隠れていないかをしっかり調べ、その上で適切な対応を行うことが重要です。
睡眠に関するお悩みがありましたら、まずはご相談ください。
不眠症の原因
不眠症の原因には、心理的要因・身体的要因・環境的要因・生活習慣的要因などがあり、それがさまざまに組み合わさって発症していると考えられています。現在、日本で睡眠に関する何らかの問題を抱えている方は、成人の約5人に1人いるとされていて、最近になって不眠症を訴える方が増加傾向にあります。増加する背景には、ライフスタイルの多様化、生活リズムの乱れ、過大なストレス、多過ぎる情報量、高齢化などがあります。
不眠症の種類
なかなか眠れない入眠障害、途中で目が覚めてしまう中途覚醒、熟睡感が乏しい熟眠障害、起床時間より早く目覚めてしまう早朝覚醒の4タイプに分けられます。日本睡眠学会では、こうした不眠が週に2回以上あって、少なくとも1ヶ月以上その状態が持続していて、苦痛を感じる、あるいは社会生活や職業的機能が妨げられている状態を不眠症と定義しています。
入眠障害
寝つきが悪く、眠るまで2時間以上かかるタイプです。心配なことやストレスなどで起こりやすいのですが、眠ってしまえば朝までしっかり眠れます。
中途覚醒
寝つきはいいのですが、夜中に2回以上目が覚めてしまうタイプです。熟睡感に乏しい傾向があります。
熟眠障害
眠りが浅く、十分な睡眠時間をとっていても熟睡した感じがしません。高齢者や神経質な方に多いとされています。
早朝覚醒
すぐに眠れますが、起床時間の2時間以上前に目が覚めてしまい、そのまま眠れなくなります。高齢者やうつ病の方に多い傾向があります。
不眠症の原因
さまざまな要因がありますし、それが複雑に作用して発症している場合もあります。
心理的要因
不安、イライラ、人間関係などの悩み
身体的要因
ホルモンバランスの変化、頻尿、皮膚炎によるかゆみなど
更年期障害やアトピー性皮膚炎、前立腺肥大などによって起こるケースが多くなっています。
環境的要因
季節の変わり目、引っ越し、異動や入学、転職など環境の変化
生活習慣的要因
飲酒、喫煙、カフェインの摂取過多など
眠る直前までスマートフォンを操作していることによる入眠障害も近年増えています。特にエナジードリンクやストロング系アルコール飲料なども、大きな睡眠障害の契機となります。また夕方以降のコーヒーや紅茶の摂取なども間接的な不眠の要素になります。
不眠症の治療
生活習慣の改善と、薬物療法が主に行われます。原因、患者様のライフスタイルやお悩みになっているポイントなどによって治療内容は大きく変わります。
生活習慣の改善
朝、決まった時間に起きて日の光を浴びる
人間の体内時計の周期は約25時間にセットされます。24時間ではないので、そのままにしていると生活リズムがズレてしまいます。元に戻すためには、毎朝同じような時間に起きて、太陽の光を浴びることが重要です。眠りにつく時間には神経質にならなくても構いませんが、起きる時間は決めましょう。また曇りや雨の時でもカーテンを開けて、外光を浴びましょう。
朝食を必ずとる
起床したら1時間以内に朝食をとることで、身体がすみずみまで目覚めます。腸の調子を整えるためにも、朝食は重要です。
毎日の運動習慣
血行が改善して代謝がよくなるため、良質な睡眠につながります。ただし、寝る直前は激しい運動をせず、軽いストレッチ程度にとどめましょう。
昼寝は午後3時までに、30分以内が目安
睡眠障害があると昼間に強い眠気が起こることがあります。そうした際の昼寝は、時間配分さえ間違わなければ身体の疲れや気分のリフレッシュに役立ちます。午後3時までの時間であれば、30分以内の昼寝を行っても大丈夫です。
入浴は就寝3時間前に
寝る3時間前までに入浴して体温を上げておくと、寝る時間になると自然に体温が低くなってきて入眠しやすくなります。できれば毎日ぬるめのお湯に浸かって芯まで温まるとリラックスできます。
就寝前のパソコンやスマホの利用は避ける
睡眠を促すメラトニンというホルモンの分泌は、目に光が入ると減少してしまいます。パソコンやスマホの画面は強い光を発しているため、就寝時間が迫ってきたら使用をやめてください。一般的には就寝2時間前にパソコンやスマホなどを見ることは推奨されません。
眠くなってから布団に入る
睡眠時間になったら布団に入る習慣があると、なかなか眠れないという経験が重なることで布団に眠れないというイメージがついてしまいます。眠くなってから布団に入ることで、こうした不安に陥らないようにできます。
薬物療法
生活習慣の改善を行っても眠れない場合、薬物療法を検討します。不眠のタイプによって適した薬剤が異なります。特にタイプに合わせた作用時間を考慮することは重要です。また原因疾患や不眠にともなう症状などによって抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬、漢方薬などの使用が検討されることもあります。重要なのは処方の際に指示された用法や用量をしっかり守ることです。自己判断せず、医師の指示をしっかり守って服用しましょう。