パニック障害

パニック障害とは聞き慣れた病名になりつつありますので、おおよそ推測はつくことが多いかと思います。パニック障害に関しては単純に(特定の条件下に限った)『パニック症状』のみで精神的な不調と言うケースもあれば、前段階のストレス要因や生活上の困難、人間関係などの複合的な要因によって『パニック症状』となることがありますので、これらを診察の段階で丁寧に見分けていくことが大事かと考えています。また女性の場合背景に貧血などが隠されているケースもあり、身体疾患との丁寧な鑑別が必要とされております。

単純な(心理社会的な要因が少ない)特定の環境下での「パニック障害」であれば、おおよそ薬物療法で適切に軽快することが多いです。具体的にはSSRIなどの抗うつ薬が非常に有効に効果することが多いです。中長期的には心理療法などを併用しながらその内服頻度を減らしていく、頓服治療としながら一時的な治療終結を目指していきます。もちろん経過中、費用の問題、その他副作用などの問題から薬物療法そのものが継続困難であったり、、継続しづらい患者様もいらっしゃいます。これらに関しては患者様それぞれの問題で治療の目標など総合的に判断して提案をさせていたことが多いです。

パニック障害とは

パニック障害とは激しい動悸、脈拍が異常に多くなる頻脈、発汗、震え、息苦しさ・窒息感、めまい・ふらつきといった身体的な異常と、強い不安感に突然襲われる病気です。こうした症状は、パニック発作と呼ばれます。パニック発作は10分から1時間程度で治まります。「死ぬかもしれない」と思うほど強い発作でコントロールできないことから、「また起きたらどうしよう」という発作への恐怖感が生まれ、予期不安、広場恐怖、うつ症状などを起こすこともあります。実際に、パニック障害のある方の多くが、うつ病の症状も持っています。
検査をしても内科的な問題はありませんが、脳の不安を感じる神経系の機能異常が関連して発症するとされています。日本では、一生の間にパニック発作を起こす方が100人に1~2人程度いるとされています。決して特殊な病気ではなく、誰もがなる可能性があります。

パニック障害の原因

パニック障害を起こす原因はまだはっきりとはわかっていませんが、脳内伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの量やバランスの崩れなどが関与する脳機能障害だとされています。
パニック障害のある方は、互いに関連しあってネットワークを作っている大脳・大脳辺縁系・青斑核の3ヶ所に通常と異なる変化を起こしていることがわかっています。大脳は思考や意思など高度な精神活動に関わっていますが、ここでセロトニンの分泌過剰が起こると回避行動などが生じるとされています。大脳辺縁系は本能的な不安や興奮が生まれる場所で、それを調整するセロトニンが分泌異常を起こすことで、漠然とした強い不安が生じるとされています。青斑核が出したシグナルを視床下部がキャッチして心臓・血管・汗腺の反応を起こしますが、青斑核が誤動作を起こすと危険がない場合でもパニック発作を起こすとされています。
また、延髄には二酸化炭素(CO2)を感知する働きを持つ中枢化学受容器があって、二酸化炭素が過剰だと感じるとストレスや危険を感知する扁桃核に情報が伝わります。扁桃核がその情報に反応してセロトニンを抑制するため、不安や恐怖への反応が鋭敏になって自律神経が活発になり、パニック発作を起こすとされています。
パニック発作自体は命に危険が迫った際にそれを回避するための役割を持った反応ですが、パニック障害では中枢化学受容器が過敏になることで危険がない状態でも扁桃核へ情報が伝わってしまい、それによってパニック発作を起こすのではと考えられています。

パニック障害の特徴

パニック発作は、パニック障害ではなくてもなることがあります。閉所恐怖症の方が狭い場所に閉じ込められる、高所恐怖症の方が高所に上がることなどでもパニック発作を起こします。パニック障害の場合はこうした特定の状況によって発作を起こすのではなく、「予期しないパニック発作」を起こすことが大きな特徴になっています。

予後不安と広場恐怖

予後不安と広場恐怖パニック発作を繰り返して、「またあのつらい発作を起こすのでは」という強い不安が消えなくなっている状態が予後不安です。
そして広場恐怖は、広い場所が怖いということではありません。「そこに行くとパニック発作を起こすかもしれない」という苦手な場所ができている状態です。広場恐怖の対象になる場所は、患者様によって大きく異なります。
予後不安と広場恐怖が強くなると日常生活に大きな支障を生じ、負のスパイラルを起こして外出できなくなる場合もあります。周囲の理解が得られないとうつ症状もともないやすいため、早期の専門医受診が重要です。

パニック障害の症状

情緒的な症状

  • 自分ではないように感じる
  • 意識を失うような恐怖
  • このまま死ぬのではという恐怖
  • また発作が起きるのではないかという強い不安を持つようになる予期不安
  • 発作を起こした場所が怖くなる広場恐怖 など

身体症状

  • 動悸(心臓のドキドキが強くなる)
  • 過呼吸
  • 突然の息切れや息苦しさ
  • のどに何か詰まっているように感じて、呼吸しにくい
  • 胸の痛みや不快感
  • 突然お腹に違和感が現れる
  • 吐き気・嘔吐
  • しびれが起こる
  • 突然、汗や冷や汗が出る
  • 身体が震える
  • めまい・ふらつき・気が遠くなる
  • 肩・首筋・背中などが強くこる
  • 頭痛

パニック障害を起こすシチュエーション

パニック障害を起こす場面は患者様によって異なりますが、満員電車、飛行機、高速道路、エレベーター、レストラン、映画館、歯科医院、病院、美容院など発作を起こしやすいシチュエーションがいくつかあります。混雑している場所、すぐに逃げられない場所、誰もいない場所などで、動悸・過呼吸・立ちくらみ・息苦しさ・不安感などを起こした場合はパニック障害かもしれません。また、パニック障害の発作は予期しない状況で起こるため、就寝中に突然強い不安が起こり、眠れなくなるといったケースも存在します。

パニック障害の治療

パニック発作で命を落とすことはありませんが、死が目前に迫るような大きな苦痛を感じてしまいますし、パニック発作を起こすこと自体が次の発作を起こしやすくしてしまいます。こうした負のスパイラルを断ち切るためにも、早期の適切な治療が有効です。

初診時には、患者様はお薬や治療に関しても強い不安を感じやすい状態です。そのため、当院ではパニック障害について、具体的にわかりやすくお伝えしています。特に、「100人に1~2人程度が発症する病気」「薬物療法で効果が出やすい」「生活習慣の改善や認知行動療法も有効」といったことをしっかりご説明しています。

薬物療法

薬物療法パニック障害でうつ病を合併している方は少なくないのですが、パニック障害だけの場合でもSSRIなどの抗うつ薬による治療が有効です。ただし、薬に対して過敏に反応しやすい傾向があるため、治療の開始時には少量を処方します。即効性がなく、効果が現れるまでに数週間かかるため、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の処方を検討することもあります。この薬には即効性がありますが、慎重な処方が必要であり、症状が治まったら減薬・中止します。

心理療法

支持的精神療法、認知療法的アプローチ、行動療法的アプローチなどを取り入れた治療も有効です。
支持的精神療法では理解・共感してお気持ちを支え、認知療法的アプローチでは発作で起きている身体的な状況を客観的に捉えるためのお手伝いをします。行動療法的アプローチでは、苦手なシチュエーションや行動を見直して、段階を追って無理せず少しずつ克服できるようサポートします。

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